書評 大隅洋著、桜とシリコンバレー~日米の架け橋として:サンフランシスコ総領事のエッセイ集~
山田重夫(駐米国大使)

本書は、2023年9月から2025年8月まで在サンフランシスコ総領事を務めた大隅洋現駐ウクライナ大使が、在勤中ほぼ毎月、総領事館のウェブサイトに掲載した「総領事だより」を再構成し、さらに帰国後に執筆したコラムを加えて一冊にまとめたものである。
評者の手元には、毎回「総領事だより」が届けられていた。そこには、総領事としての日々の活動が単に記録されているだけではなく、その背景にある歴史的意義、将来への展望、そして総領事としての使命感が綴られており、いつも深い関心を持って読んでいた。本書は、それらの「総領事だより」を中心にまとめたものであり、サンフランシスコ総領事館が管轄する北カルフォルニア及びネバダの今の姿を理解する上で非常に有意義な書籍である。同時に、これからの日米関係の更なる発展、日本の在り方を考える上でも、多くの示唆を提供してくれている。
サンフランシスコ総領事館は、近代日本国家が設置した最初の在外公館として長い歴史を有し、これまでも日系人との関係、経済交流などの分野で重要な役割を果たしてきた。最近では、本書のタイトルにもあるように、世界を代表するイノベーション拠点であるシリコンバレーとの関係が一層注目されている。
日本政府もシリコンバレーに「ジャパン・イノベーション・キャンパス」を設置し、その活力や知見を日本経済の活力を取り入れる取組を進めている。著者は、「大技術革新時代における日本の課題及び、総領事館として何を貢献できるか」という大きなテーマを掲げ、AIセミナー、デュアルユーステック・セミナー、主要な日本人科学者のネットワーク構築などの具体的な取組を着実に進めてきた。このように、在勤の早い段階で明確な問題意識と目標を設定し、それを任期中に着実に実行に移していく姿勢は、大いに参考になるとともに、自省させられる。
評者は、今日の日米関係がこれまでになく良好な状況になっている背景には、長年にわたる多層的な草の根交流が育んできた相互理解、友情、信頼関係という強固な土台があり、それらの草の根のサポーターたちに感謝するとともに、今後の活動を後押ししていくことは、在米外交官の最大の任務の一つと確信している。
著者もまた、日米関係は草の根からスタートする、という考えから、日本語教育、JET、姉妹都市交流、日系人の日本語教育に焦点を当てて、直接の当事者と共に取り組む姿を記している。中でも、2011年の東日本大震災の際に岩手県立高田高校の実習船「かもめ」が漂着したカルフォルニア州北西端のクレセントシティと陸前高田市が姉妹都市となったこと、そして著者の帰国後に実現したクレセントシティ代表団の陸前高田市訪問に著者自身が参加した際の様子は、心温まるものであると同時に、改めて草の根交流の力を感じさせられる。
評者自身、サンフランシスコに出張した際、著者とともにサンフランシスコに加え、サクラメント、シリコンバレーで行事に参加したことがある。その際には、著者から総領事館としての取り組みの紹介を受けたが、この一冊に凝縮されている著者の活発な活動、思索、行動が、わずか2年足らずの在勤期間に実現されたことに、改めて感銘を受けるとともに、心から敬意を表したい。
