余談雑談(第94回)韓国

元駐タイ大使 恩田 宗

 韓国と日本の関係は日本人にとり最近不愉快な話が多く考えるのが苦痛になる。然し隣の国であり南北合わせれば日本に並びうる。考えないでは済ませない。
 
 名著とされてきた「隣の国で考えたこと」(岡崎久彦1977年)を読むと、日韓の相互嫌悪は日本人の無知からくる韓国人に対する蔑視と差別扱いが原因でそれが韓国人の自尊心を傷つけ反日感情としてはね返っているとし、韓国の生活水準が日本に近づけばこの悪循環を絶てるのではないか、とある。あの時代はまだそんな望みを持つことができた。
 
 「日韓歴史認識問題とは何か」(2014年)の著者木村幹は、日韓関係は1980年代を境に激変し、それまで問題にされなかった靖国神社や歴史教科書や慰安婦の問題に火が付き、以来軋轢は悪化の一途だと言う。原因は、日本への経済依存度の減少、韓国での世代交代と民主化や左翼勢力の台頭、対日問題の政争上の争点化、日本人のナショナリズムとキーセン観光、中国の対日歴史認識批判への同調等、複合的で根が深く、共通の歴史教科書などとても作れないと書いている。

 韓国の「高等学校韓国史」(2011)は全体の35%を日帝時代に25%を独立後に割いていて現代史重視である。然し日韓国交正常化については、時の政府が国民の反対を押しきって条約を結び経済開発資金の一部を得たが謝罪や略奪文化財の返還や徴用者・慰安婦の問題は解決できなかったと僅か数行で済ませている。村山・河野談話にも言及せず「日本の戦争責任問題は未解決」が全巻の結び言葉である。
 
 韓国には抗日闘争と独立を追憶記念する施設が各地にあるらしい。作家の前川仁之は韓国最大の天安独立記念館の日本関系の展示は「これからも日本を恨んでゆきましょう」との勧誘のようだと書いている。2020年8月には文大統領の主導のもと慰安婦に関するデジタル・アーカイブも開設されている。恨みを深く長く抱く文化らしいがそうした施設がこれからも増えていくのかと思うと気が重くなる。

 武藤元駐韓大使は「韓国人に生まれなくてよかった」でこう言っている。①韓国人は一旦思い込むと頭で理解してもハートで納得しなければ考えをなかなか変えない②喜怒哀楽が激しく激昂すると理屈抜きになり問題を蒸し返す③韓国人の対日感情は良くなってはいるがそれを表に出せるかは政府の政策如何による④文大統領は和解を目指す可能性が少なく今は何をしても駄目である、と。
 
 俳人黛まどかの韓国紀行(2001)にこんな話がある。ふと入った喫茶店の女店主と話が弾み彼女に「教科書問題とか色々あるけど私たちには関係ないからね!」と腕をからみ取られ見えなくなるまで手を振りあって別れた、と。望みは持ち続けたいと思う。

(注)このホームページに掲載された「余談雑談」の最初の100回分は、『大使館の庭』と題する一冊の書籍(2022年4月発行、ロギカ書房)にまとめてあります。