余談雑談(第86回)シン・ゴジラ

元駐タイ大使 恩田 宗

 映画「シン・ゴジラ」は大ヒットして収益は六十億円を上回ったらしい。ゴジラは恐竜がモデルの怪獣で1954年の第一作以来29本目で累積観客数はドラエモンに次ぎ1億人を超えたという。シン・ゴジラは海底投棄された核廃棄物を飲み込み強大獰猛になり東京へ上陸して暴れ廻るという筋立てだった。
 本物の恐竜は1億5千万年もの間陸上の支配的な動物として繁栄した。霊長類(サル)は生まれて6千5百万年で二足歩行の人類は7百万年、人間(現生人類・ホモサピエンス)は20万年に過ぎない。宇宙から見てこの星が生んだ代表的な動物といえば恐竜ということになる。地球とその動植物をわが物の如くに振る舞う倨傲な新参者の人間を恐竜が懲罰したいと思っても不思議ではない。

 恐竜は6千5百万年前に絶滅した。彼等に落ち度があった訳ではない。直径10キロの隕石が落下し気候が激変して地球生物が大量に絶滅したのである。生物の大量絶滅は原初以来何回も繰り返し起きたらしい。「理不尽な進化」(吉川浩満)によると地球に生じた生物種は99.9%絶滅しているという。絶滅した種は劣っていたとか生存競争に敗れたとかではなく殆どは単に運が悪かっただけらしい。自分の責任ではない事態(気候の寒冷化や海水準の低下や無酸素事変など)で滅亡し、結果として別の生物に進化を促し繁栄をもたらすこととなった。恐竜が隕石で滅び逼塞していた体の小さい哺乳類が生き延びてその中から人間が進化してきたように。種の絶滅は進化にとって必須の現象だという。

 人間もいずれは絶滅し別の生物が別の方向に進化していくのだろう。前掲書によれば種の平均寿命は約400万年だという。現生人類の余命は380万年ということになる。人が感覚的に理解できる時間の単位はせいぜい千年である。380万年では永久と変わらない。ただ人間は核爆発という巨大な破壊力を手にしており知恵の程度からして絶滅はもっと早いかもしれない。その場合は種の絶滅が種自らの責によるという希な例になる。 
 
 シン・ゴジラは自衛隊の砲弾もミサイルもはね返す。米戦略爆撃機の高性能爆弾にも耐え逆に放射線で米機を撃墜する。安保理は人類の危機だとして核兵器による爆破を決議する。そんな事をされては東京が破滅する。日本は急遽開発した薬物を注入しゴジラを凍結するので攻撃開始を暫時遅らせて欲しいと頼むが自国への再上陸を恐れる中露米は受け入れない。窮した日本の首相臨時代理はフランス大使館に赴き座した大使に直立最敬礼して助力を請い時間を稼いでその間に日本の決死隊がゴジラ凍結に成功する。日本の首相代理は英仏あるうち何故後者の大使館に行ったのか映画は特に説明していない。

(注)このホームページに掲載された「余談雑談」の最初の100回分は、『大使館の庭』と題する一冊の書籍(2022年4月発行、ロギカ書房)にまとめてあります。