私のセコンドキャリア(弁護士として)


元駐南アフリカ大使、元駐フィジー大使 吉澤 裕

 私は、2014年12月に外務省を退職した後、2021年1月に司法試験に合格し、司法修習を経て、2022年5月から、ベンチャーサポート法律事務所に弁護士として勤務しています。何故外務省退職後に司法試験を目指したのか、司法試験合格までの体験などについては、2022年12月号の霞関会報に投稿いたしましたので、それをご覧いただければ幸いです。霞関会のホームページでもご覧いただけます。

1弁護士としての仕事
 今弁護士としてやっている仕事は、個人の相続、離婚、債務整理(破産その他)、法人の債権回収、債務整理、契約書作成など、いわゆる一般民亊といわれる仕事です。訴訟への対応もかなり多数にのぼっています。
 一口に一般民亊の仕事といっても、各案件はそれぞれ異なっており、過去の裁判例などを調べたりして自分で解決策を考えていかなければならないので、知的好奇心を満たされる仕事といえます。
他方、英文の契約書作成などの仕事もそれなりにありますが、今の私の仕事はいわゆる渉外弁護士のような仕事ではありません。
難民認定その他外国人の人権問題に対応する仕事もゆくゆくは取り組んでいきたいと考えていますが、今のところは眼の前の仕事をこなしていくので精一杯の状況です。

2.外務省の仕事との違いーその1
 知的好奇心が満たされる仕事という意味での共通点もありますが、弁護士の仕事と外務省の仕事はかなり異なっています。
 最初にあげられるのは、外務省の仕事は広い意味での公益に資することを目的としていますが、弁護士の仕事は依頼者の利益を最大限に実現することを目的とした仕事であるということです。
 弁護士としての倫理上、違法なことをすることはできませんが、その範囲で、私人としての依頼者の利益となるのは何かを考えていかなくてはなりません。
 外務省の仕事も日本の国益を実現するという目的でやっているわけですが、国益というのは、弁護士の依頼者である私人の利益より、公益性あるいは抽象性がかなり高いと思います。

3外務省の仕事との違いーその2
 次に弁護士は、依頼者からの依頼によって仕事をしているということです。依頼者との信頼関係が生まれないと依頼もされないでしょうし、依頼されても信頼関係が失われれば、依頼が終了してしまうことになります。弁護士は、依頼者の希望が最大限に実現するよう努めていくべきことになります。
 もちろん、外務省の仕事でも、多くのステークホールダーの要望に耳を傾けていかなければなりませんが、ステークホールダーの要望を実現しないと直ちに仕事を失うわけではないという点が、弁護士とは異なると思います。つまり、ステークホールダーが外務省の仕事を気に入らなくとも、外務省とは別の組織に外交のすべてをさせるということは通常はないといえるでしょう。

4外務省の仕事と弁護士の仕事ではどちらにやりがいがあるか
 以上のように外務省と弁護士の仕事はかなり異なっている面がありますが、どちらの方により大きなやりがいがあるといえるでしょうか。
個人的な意見にはなりますが、結論として、いずれもやりがいがあると思います。そして、私としては、外交官、弁護士という異なる2つの仕事を、一つの人生で経験できたことは、大変幸運であったと思っています。

5弁護士としての収入
 現在所属している弁護士事務所では、雇用ではなく、業務委託契約という形態になっています。
従って収入も変動しうるものではありますが、通常2-3年目の弁護士が平均的に得ている程度の収入は得ているかと思います。

6セコンドキャリアとして何を目指すべきか
 私が、外務省退職後に弁護士を目指したのは、冒頭に述べた霞関会報の雑文でも述べたとおり、外務省入省前から、また、外務省での仕事をしている間においても法律の仕事に関心があったからでした。司法試験の準備もかなりハードでしたが、乗り切ることができたのは法律の仕事に関心があったからだと思います。
 外務省在職者にとって、セコンドキャリアを見つけるのは、必ずしも容易ではないと思いますが、自分がやりたいことは何かを見極めて、それを実現できる仕事を探求していけば、道が開ける可能性が高いと思います。その際、特別な事情がない限り、収入がどれくらい得られるかを重視する必要はないと思います。
 また、これは、私自身の反省の意味を込めて申し上げると、セコンドキャリアの問題は、在職中のできるだけ早い段階から視野に入れて、可能な範囲で準備を進めていくことが望ましいと思います。

 最後に、先ほど、外務省の仕事、弁護士の仕事、いずれもやりがいがあると書きましたが、私としては、最初に外務省の仕事を選んだことは正しかったと考えていることを付言したいと思います。

以上