余談雑談(第182回)帝国

元駐タイ大使 恩田 宗
長嶋茂雄は現役引退式典で「わが巨人軍は永久に不滅です」と述べた。しかし人間の作ったもので不滅のものはない。万里の長城もエンパイヤーステイト・ビルもいつかは崩れ落ちる。不滅と称されたローマ帝国(西)も500年で滅びた。地球も4~50億年経てば太陽の寿命が尽き原型を保てなくなる。
帝国は広大な地域内の複数の民族集団(或いは国家)を皇帝が統括的且つ専制的に統治する政治体制である。人間が作ったものとしては長持ちがする。79年で消滅した大日本帝国は例外である。最古の帝国アッシリアは最盛期にはメソポタミヤを中心にエジプト・ペルシャ他オリエント全域を支配していた大帝国であるが最初期から数えると1400年続いている。中国の秦・漢・唐・宋・元・明・清などの諸帝国は秦を例外とし100年から300年ほど存続している。
帝国滅亡の原因には内部的要因(後継者の欠如、貴族・官僚など支配層の腐敗・抗争、国民の不満、疫病、人口減少、経済力・軍事力の低下、帝国内諸民族の離反・反乱等)と外部的要因(外敵の侵入、異常気象等)があるが、共通する基本的原因は国家としての体力気力の衰退である。ローマは国力特に軍事力が衰え周辺の蛮族に蚕食されて滅びた。多数の異民族を取り込んでいる場合は彼等に一斉に離反されると簡単に瓦解する。オスマン帝国がその例である。ハプスブルグ帝国ほか欧州諸国との長引く戦争で度重なる改革の努力むなしく「欧州の病人」と揶揄されるほど疲弊し支配下の諸民族に背かれ第一次大戦に敗れるとあっと言う間に解体した。
清の乾隆帝はウイグル族やチベットを征服し支配領域の外縁(国境と違う)を大きく広げた。18世紀の中頃で英国は印度に橋頭保を築きつつあった。今の中国は清帝国最盛期の領域をほぼそのまま引き継いでいる。その為領土内に多くの異民族群を抱える帝国的構造の国家になっている。現代は被支配民族が自立を強く望めば独立させるよう国際圧力が高まり国家体制の変革を迫られる。中華人民共和国政府は異民族を支配下に置き続けようと彼等を中華人民化(実質は、漢人化)する教育を進めている。独立国だった歴史を持ち宗教も違う彼等が民族的アイデンティティーを捨て漢人に同化するだろうか。又、強気な同国は「中華復興」の夢を膨らませ台湾や南シナ海まで力づくでも取り込もうとしているが、夢の膨らませ過ぎでそこまでは無理ではないか。
地球の4分の1を支配した近代最大の帝国大英帝国の解体は大きな波乱なく行なわれ本国への打撃も限定的であった。英国が十分時間をかけあまり欲張らなかったからである。(了)
