余談雑談(第177回)英語の行動原則


元駐タイ大使 恩田 宗

 新聞の書評と題名にひかれ「知って得するすごい法則77」という新書本を買って読んだ。著者(清水克彦)は仕事上知り得た77の人間の行動法則を紹介し時代に影響されない本質が含まれているので何かの為に役立つヒントが得られる筈だとしている。
 77の法則の殆どは「メラビアンの法則」のようにカタカナ名である。主に米国で活用されているものらしいがその多くに対応する諺が日本にもある。「メラビアンの法則」は人間関係は言葉で伝えられたことの内容より伝えた人の表情や体の仕草など非言語的コミュ二ケーションに大きく左右されるという法則で米国の心理学者の説だという。日本の諺では「目は口ほどにものを言い」である。
 77の中に「地獄の沙汰も金(かね)次第」に対応する法則はない。欧米でも賄賂は行われているようであるが金銭や性についてはあからさまに口に出せないとの制約が強いのかもしれない。明治のいろはカルタの絵では威張った男に商人らしい人が厚い札束を渡している。あまりに露骨で子供の教育上どうかと思うが問題にはならなかったらしい。英語に「泥棒を捉えるには泥棒を雇え」という諺がある。日本では「蛇の道は蛇」であるが蛇に対する感覚も日本と欧米では違う。キリスト教国では人間を誘惑した悪の象徴であるが日本では江戸の町中でもよく見かけ嫌らわれはしたが馴染みがあり捉えて食べてもいた。

 77の中に漢字名の「松竹梅の法則」がある。料理屋で値段が上中下あるメニューを示すと多くの客は中間の「竹」を選ぶらしい。或る店では松二割・竹五割・梅三割だという。世界的には「ゴルゴディロックス効果」と呼ばれている。人間は三段階の選択肢がある場合は真ん中を選ぶ性向がある事を利用し、人に何か仕事をさせたい場合それより手ごわい仕事と極単純な仕事を並べそこから自由に選ばせる遣り方もしているらしい。

 米コンサルタント提唱の「エメットの法則」は、仕事は先延ばしすると倍の時間とエネルギーが必要となる、「初動が大切」で兎に角第一歩を踏み出せ、と促す。カルタの「思い立ったが吉日」も思い立ったらすぐ行えと勧める。しかし中々そうはできない。足の踏み場もなく本の散らばる部屋に入る度に何とかしたいと思うが未だ手付かずである。
 「ダニング=クルーガー効果」は二人の心理学者が大学生で実証実験をして唱えた学説で能力の低い者は自分を正しく評価できず過大に評価して過信し思い込みや先入観に囚われ非合理的な判断をしてしまう現象をいう。この症状の人物が大国の権力を掌握すると諸外国を苦しめ自国民をも困らせることになる。 (了)