ボツワナの副大統領との交流


日本体育大学理事長 松浪健四郎

 昨年11月、ボツワナ共和国のハオラテ副大統領が日本体育大学を訪れた。駐ボツワナの進藤雄介大使からの要請で、喜んで訪問していただくことにした。「日本の武道(柔道、剣道、相撲等)を見学させて欲しい。可能なら学生との交流をお願いしたい」、とのご連絡をいただいた。教授会は日程調整を行い、要望に応えるようにした。
 日体大のスポーツ文化学部の中に「スポーツ国際学科」なるユニークな科があり、その学生たちに副大統領の講演をお願いすることとなった。アフリカの一国の副大統領の話に、学生たちがどんな反応をし、どんな刺激を受けるか、私たちにも大きな期待と興味があった。「海外事情」という講義の授業もあって、昨年度までは元リトアニア大使であられた重枝豊英特任教授が担当されていた。外国に興味を募らす学生たちが集う学科で、日体大にしかない特徴あるコース。JICAの青年海外協力隊員の養成をも目指すコースでもある。
 2020年の東京オリンピック招致の際、安倍晋三総理(当時)がIOC総会(国際オリンピック委員会)で、国際公約として多くの国々にスポーツ指導者を派遣すると述べられた。青年海外協力隊が、その受け皿となり「体育」「スポーツ」に関する隊員職種の派遣者数が増加した。日体大からの派遣は伝統的に多数を占めてきたのである。筆者もかつては協力隊の技術専門委員を務めた。
 ハオラテ副大統領は若く、理解しやすい英語でニコニコしながら講演をされた。まず、政治家になった動機や家庭環境について語った。子供の頃から夢を持ち続け、その目標に向かって努力した体験話、厳しかった生活環境を織り混ぜて、失敗談を入れて語る。学生たちが副大統領の話に吸い込まれ、真剣にメモを取りながら喜々として聴く。
 知識を獲得するための方法、自分自身のキャラクターの確立方法、そして、将来の展望やビジョンに繋ぐ工夫を語られた。話の中に野性の象やライオンといった動物が登場するので、ボツワナの自然も想起させる話法は、学生たちを虜にした。非英語圏である日本を理解し、ゆっくりと話をされたので好感をいだかされたばかりか、豊富な指導経験があるかに映った。また、ボツワナの国民性や国情、国柄についても語られた。輸出の9割がダイヤモンドだという説明に、学生たちは声をあげて驚く。
 身近でない遠い未知の国の姿を具体的な情報を通じて耳にし、新たな好奇心を持たせ視野を広げる素晴らしい講義内容であった。もしかすれば、進藤大使は副大統領の人間性と実力を看破されていたと思われた。講義のあと、副大統領は質問を受けた。学生は堂々と英語で質問し、日本との多岐にわたる比較について問う。副大統領は「教育の重要性」を自身に言い聞かせるように述べられた。
 東京で昨年(2025年)開催された「世界陸上選手権大会」で、ボツワナ選手が男子800mと1600mリレーで金メダルを獲得した。なぜ強いのかの問いに、「大自然の広野で動物と競っているからです」の答えが笑いを誘った。資源や産業について、自然環境の保護政策等についても語られた。価値観をはじめ、あらゆることが異なる国のリーダーの生の声を眼前で学生たちは耳にして、濃厚で貴重な時間を持つことができた。学生たちから感謝の言葉があり、われわれも嬉しかった。いい機会を与えてくれた進藤大使にも感謝せねばならない。
 講演後、大教室から舞台をスポーツ棟に移す。剣道の練習風景を視察、サムライの技を見て副大統領一行は眼をパチクリ。次に柔道場に案内した。日体大の剣道場、柔道場は体育館ほどの大きさ、施設の立派さにもビックリ。元気な大きな「気合い」の声が響きわたるため、武道の特色を肌で感じられた印象を受けた。さらに相撲場では、マワシ姿の大柄の力士(学生)を見て驚かれた様子だったが、熱心に稽古やルール、歴史について質問された。相撲の迫力は興味深かったのか、じっとご覧になられた。おそらく、日本の身体文化の特徴、異色さに考えさせられたのかもしれない。
 武道を見学することによって、日本文化の重厚さを体感されただろうし、日本人の特殊性に頭を混乱させたかもしれない。時に本学に視察のために来学される海外の要人も少なくないが、新渡戸稲造の『武士道』を読むまでもなく「百聞は一見に如かず」であろう。相互の理解を深め交流を密にする手法は、いろいろあろうが、日本の学生や若者との対話は濃密で刺激的であると再認識させていただいた。
 外交日程上、外国からの賓客は多忙であろうが、可能なかぎり学生や若者たちとの交流を組み入れるようにしていただきたいと願う。ボツワナ共和国のハオラテ副大統領に感謝して、ご多幸を祈念する。交流した学生たちは、永久にボツワナ共和国を忘れないに違いない。